インド映画の名作 を、20年来のヒンディ映画(ボリウッド映画)ファンである私が厳選して紹介いたします!
かつては歌と踊りに溢れるミュージカル作品が多いことで知られていたインド映画ですが、2010年代以降は歌わない・踊らない静かな作品が増えています。本記事では、日本人にもとっつきやすい現代インドのヒューマンドラマを中心にピックアップしています。
日本人にとっつきやすい現代インド映画
かつては歌と踊りに溢れるミュージカル作品が多いことで知られていたインド映画ですが、実は2010年代以降、歌わない・踊らない静かなドラマ作品が増えています。
日本でも最近「マダムインニューヨーク」が話題になりましたが、この作品も会話中心にストーリーが展開していく、誰にでも見やすいヒューマンドラマでした。
この傾向は現在更に加速しており、2019年にはミュージカル仕立てのインド映画でかつて活躍していたダンサー達が仕事に困っているとのニュースも報道されました。
仕事に困っているボリウッドダンサーたちに申し訳ない気持ちもありますが、以下に日本人にとっつきやすい、歌わない・踊らないインド映画 のおすすめ作品を厳選してご紹介しています。
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Dear Zindagi (2016年)
監督:ガウリー・シンデ
「マダム・イン・ニューヨーク」の監督によるヒューマンドラマで、主演はRRRやHeart of Stoneで世界的にも注目され始めたアーリヤー・バットです。
アーリヤーが演じる主人公は、才能ある若手シネマトグラファーのカイラ。親しい友人には恵まれているものの常に心の中に爆発しそうな何かを抱えていて、特に男性とは安定した関係を築くことができません。誰もが憧れる海辺の町・ゴアに実家がありますが、極端に帰省するのを嫌がっており、故郷に辛い思い出があることが伺えます。
ある日、理不尽な理由でムンバイのアパートから退去を言い渡されるカイラ。更に、本当は好きだったのに自分から冷たくあしらってしまった男性がさっさと他の女性と婚約してしまったことを知りショックから不眠症になってしまいます。
逃げるようにムンバイを離れ、あれほど嫌がっていたゴアに拠点を移すカイラ。父親の紹介でホテル内にあるレストランのCM撮影を引き受けますが、撮影の日にたまたま同じホテルで開催されていたカンファレンスでパネリストとして話していた精神科医に興味をひかれ、診察を予約します(精神科医を演じるのは超大御所のシャールーク・カーン)。
カウンセリングを経て長年の課題とようやく向き合い、克服していくカイラを描いた前向きなストーリーです。
昨今のインド映画界一位のかわいさではと私が思っている主演のアーリヤー・バットですが、実は相当複雑な家庭に生まれています。彼女のセレブで複雑な生い立ちについては、こちらの別記事に愛を込めてまとめましたので、ぜひご参照ください。
Dhobi Ghat / ムンバイ・ダイアリーズ(2010年)
別世界に住む4人の登場人物の人生がインド・ムンバイで交錯する様子を淡々と映しています。
最後にゾッとしてしまうサプライズな展開が。ビジュアルが美しく、言葉に出ない感情の描写が多い芸術色の強いドラマで、フランス映画やドイツ映画が好きな方に相性が良いと思います。
Laal Singh Chaddha (2022年)
監督:アドヴェット・チャンダン
ハリウッド映画「フォレスト・ガンプ」のインド版ローカライズ&リメイクです。
インド史がストーリー展開に反映されており歴史の勉強になるほか、インドの抱える外交問題も垣間見ることもできます。チョコレートの代わりにインド版フォレスト・ガンプが箱に入れて持ち運んでいるのはパニプリ(パニは別ボトル内)です。
可愛らしい、笑えるコメディです。
Mrs. Chatterjee vs. Norway (2023年)
監督:アシマ・チバー
旦那さんの仕事でノルウェーに住み、2人の小さなお子さんを育てていたインド人女性。ある日、「子供に手で食べ物を与えている」「子供と同じベッドで寝ている」という、インドでは当たり前の習慣を理由にノルウェー政府機関に2人の子供を取り上げられてしまいます。子供たちは施設に入れられ、養父母の元に。お母さんが子供を取り戻すまでの戦いのストーリーで、つい最近の実話を元にしています。
なぜノルウェー政府機関が躍起になって移民の子供を施設に入れ、養子に出そうとするのか。その裏では巨額のお金が動いていました。
数年間にわたり子供を取り返すために戦った実在の女性はこちらです。
The Sky is Pink / この空はピンク色 (2019年)
監督:ショナリ・ボース
先天性の免疫疾患を持って生まれた娘と、娘を守るための両親の戦いを描く号泣ストーリーです。主演はハリウッドでも活躍中のプリヤンカ・チョプラ。
原作は10代で亡くなった主人公アイシャ・チョウダリーさんの「My Little Epiphanies」という自伝です。
Taare Zameen Par / 地上の星たち(2007年)
監督:アーミル・カーン
勉強が全くわからず、家でも成績優秀なお兄さんと比較されてばかりのイシャーン君(8歳)。困り果てたお父さんとお母さんは彼を全寮制の学校にを託します。
家族に見放されたと感じてしまったイシャーンくんは、転校先でも読み書きができないことを笑われ大好きだった絵を書くことすらやめて塞ぎ込んでしまいますが、ある教師との出会いが彼の人生を好転させ始めます。
Dhobi Ghat, Laal Singh Chaddhaでも主演を務めたインドの大物俳優、アーミル・カーン監督・主演の社会派作品です。
「地上の星たち」が実話なのか?と聞かれることがよくありますが、特定の個人をモデルにした実話ではありません。一方で、本作品の脚本を書いたスクリプトライターは失読症の子供たちとその家族に対する徹底的な聞き取り調査を行い、詳細までリアルに仕上げるよう務めたそうです。
Wake Up Sid (2009年)
監督:アヤン・ムケルジー
ここまで社会派作品を多く挙げてきましたが、こちらは割と軽めのドラマです。裕福な家庭に生まれて苦労を知らずに育った結果何事にも真面目に取り組まない若者が、ライターになる夢を抱いてコルカタからムンバイに身一つでやってきた真面目な女性と出会い、摩擦を起こしながらも少しずつ変わっていく様子を描いた軽めのストーリーです。
The White Tiger / ザ・ホワイトタイガー (2021年)
監督:ラミン・バーラニ(イラン系アメリカ人)
衝撃のストーリー。インド社会の構造を理解するのに非常に役立つ映画です。
無学だけれど頭が切れることで知られる青年バルラムが村から逃げ出し、大都市に住む資産家一家のの運転手として職を得ます。アメリカ帰りの優しい息子とその妻のお抱え運転手となり、次第に夫婦の信頼を勝ち取っていきますが、自分が起こしたのではない事故の責任を一家になすりつけられたことで束の間の平和なお抱え運転手生活が一変します。自分の立場の弱さを思い知ったバルラムは厳しいインド社会でのし上がるためにある計画を立てます。
ちなみに本作品にはあらかじめ台本に書かれた台詞はなく、シーンを理解した上で役者が発するアドリブから創り上げられたそうです。主人公バルラムを演じるのはまだ無名の若手俳優さんですが、役に入り込むために実際に貧困層が働くお店に潜り込み、偽名を使って勤務したそうです。
インドの過酷な現実を表しているため実話かと思われる方も多いようですが、原作はフィクション小説(英国の名誉ある文芸賞・ブッカー賞を受賞したアラヴィンド・アディガの同名小説)です。冒頭から暗い出だしですが、ブッカー賞受賞作だけあって原作のほうも秀逸ですのでご関心がある方はぜひ読んでみることをお勧めします。
Amazon Primeで視聴可能な良質インド映画
Sir / あなたの名前を呼べたなら(2018年、印仏合作)
監督:ロヘナ・ゲラ
カースト制度が根強く残るインドで、婚約が破談になった御曹司と彼の家で働くメイドの間に芽生えてしまった、インドでは社会的に許されない感情を描いた静かな映画です。原題の”Sir”は主人公ラトナ(村からムンバイに働きにきた住み込みのメイドで、若くして夫を亡くした未亡人)がもう一人の主人公アシュウィン(婚約者の浮気で結婚が破談となったばかりのアメリカ帰りの御曹司)を呼ぶ時に使う「旦那様」という名前。
互いの気持ちに気づいてしまったアシュウィンは「旦那様と呼ぶのをやめてくれ」と何度も懇願しますが、自分の立場を痛いほどよくわかっているラトナは距離を置こうとし、頑なに呼び方を変えようとしません。そして、これ以上アシュウィンのそばに居るわけにはいかないと判断したラトナはアシュウィンに「決して電話しないで」と言い残し、住み込みで働いていた家を出て行きます。
インド社会がよくわかる作品だと思います。希望を残すエンディングになっていますが、現実のインドではまだまだ、このような二人が結ばれることは難しいのだろうと思います。
アマプラの作品リンクはこちらです。
この映画の重要なテーマの一つであるカースト制ですが、実はかつて、宗主国イギリスが植民地インドを分割統治するために作り上げたものです。インド独立時に英国が作ったカースト制度を破壊しようとしなかったことで批判も受けているのがマハトマ・ガンジー。やや脱線ではありますが、ガンジーの子孫について別記事でまとめています。
残念!現在ストリーミング配信されていない良質インド映画
The Lunchbox / めぐり逢わせのお弁当 (2013年)
監督:リテシュ・バトラ
インドではダッバーワラというお弁当配達屋さんが多数活躍しており、午前中に各家庭から熱々のお弁当箱をピックアップし、オフィスにいる家族の元へお昼に間に合うように届けます。アナログなシステムなのにも関わらずエラーが少ないことで一時期話題を呼びました。一説にはダッバーワラのお届け先間違いは1,600万件に1件と言われています。この稀有なエラーをきっかけに、この映画のストーリーが始まります。
普段全く会話のなくなってしまった旦那さんとのコネクションを取り戻そうと、主人公の女性は美味しいお弁当を作ってダッバーワラに託しますが、まさかの1,600万件に1件のエラーで、引退間近の寡男性のところに届いてしまいます。数日後、旦那さんの元に自分の作ったお弁当が届いていないことに気がついた女性は翌日お弁当にメッセージを忍ばせ、そこから始まる長い文通でお互いの人生ストーリーが明らかになっていきます。
Queen / クイーン 旅立つわたしのハネムーン(2013年)
監督:ヴィカース・バール
保守的・真面目な女の子、ラニ(「女王」「クイーン」という意味の、よくあるインドの女の子の名前)は結婚式前日に婚約者に捨てられ、ハネムーン先になるはずだったパリとアムステルダムに独りで旅立ちます。おどおどして名前のわりにちっとも「女王」らしくなかった彼女が旅の中で出会う人々の力を借りて次第に解放され、自分の人生の「女王」らしくなっていく様子を描いたスカッと系の楽しい映画です。
動きの速いロードムービーで、日本人にとっつきやすいと思います。
まとめ
インド映画が全て歌と踊り満載のミュージカル仕立てというのは全くの誤解で、実はたくさんの静かなドラマ作品が作られています。このリストでインド映画界の深さを少しでも伝えられたら嬉しく思います。
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